【 日本刀】樋とは?

日本刀は斬るという機能を極限まで高めた世界に類を見ない強靭さと鋭利さを備えています。現代科学は、この稀有な美術品の科学的合理性を徐々に解き明かしています。ひとつの好例を挙げれば、刀に刻された樋(ひ)の機能が挙げられます。樋とは刀の表面に彫刻された溝を意味し、主として刀身の重量の軽減を目的に施される彫刻です。樋の掻き方には棒樋・二筋樋・連れ樋・丈比べ樋など様々な種類がありますが、最も一般的な棒樋を例に話を進めてみましょう。

前述した通り樋は重量の軽減のために施されるのですが、日本刀は武器であるため、折り曲げ強度はなるべく損なわないように樋を施刻しなければなりません。樋の断面を見ますと樋の底部は僅かに湾曲して、丁度スプーンの先端で底面を削ったような形状をしています。樋は通常日本刀の棟(刃の反対側)側の表裏に施刻されるので、樋部分の断面図は丁度H形のようになります。この形状はH鉄鋼と呼ばれる建材の鉄筋と同じような構造となり、重量に比して非常に折り曲げ強度の点で優れた構造を持っています。

より具体的には、樋を切ることで重量の軽減率は約15%、一方折り曲げ強度は約5%低下すると試算されています。つまり、軽量化の効果が強度の低下率を大きく上まわるということが科学的に証明されているのです。

往時の刀鍛冶は、樋の効果的な切り方を計算していたわけではありません。千年以上にわたる試行錯誤の末に帰納的・経験的に合理的な方法を導き出したのです。本当に日本刀とは尊い美術品であると思う理由の一端がここにあります。

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